プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 海洋ロマンには縁がない男編」

わしが初めて海を見たのは、小学校3年の時に家族旅行で鳥羽に行った時やったと思う。旅館で新鮮なお刺身を食べて鳥羽水族館に寄って帰った1泊2日の旅行やったと記憶しとるが、あまりはっきり覚えとらん。カニを瓶に入れて面白がってた記憶がちょびっとだけある。それから2年して小学校の友だちと同じ伊勢志摩にある答志島でキャンプをしたんやが、海で泳ぐのが初めてやったわしは夜になってキャンプファイヤーが終わってから耳が痛くなってパニックになってしもうた。痛い痛いちゅーてたら、キャンプの責任者の判断で夜中に船に乗って救急医療をしてくれる病院に連れて行ってもろた。医師が外耳炎で痛み止めを処方してくれて痛みが治まったんやが、何となくまた海に入ったら外耳炎になるんとちゃうかちゅー警戒心が残ってしもうた。ほんでー、小学校の頃はもちろん海水浴には行かんかったし、夏のプール通いもせんかった。中学校、高校も同じでわしは泳ぎも下手やったし親も海水浴に行ってもわしが喜ばんかった(兵庫県の日生に行った時がそうやった)のを覚えていて、家族旅行はそれから後は観光名所めぐりに切り替えたんやった。中学生になったら、水着の女性を横目で見ながら海岸で甲羅干しをしたり、海岸にある露店でジュースを飲みたいアイスクリームを食べたいと思うもんやが、そういうのが好きな友人がおらんかったちゅーのもあって今までに一度も甲羅干しちゅーのをしたことがない。魚の干物を食うのは好きなんやがな。社会人になってからもわしは海には行かんかった。海の魚や他の生物に興味を持って水族館に行ったり、潮が引いた海岸で様々な海の生物を観察したりする人がおるけど、休日に海に出掛けようという気持ちは起こらん。今やったら、中耳炎になったら医者にかかればええというのはわかっとるんやけど、夜に突然耳が痛くなったら困るなあという漠然とした不安がトラウマになってしもうとる気がする。そやからこれからもわしは目の保養とか露店で魚や貝の炭火焼を食するためにビーチに出掛けることはないと思うんや。船場もちいこい頃から泳ぎが下手で20代の終わり頃からヘアスプレーのお世話になっていたこともあって水泳は全然せんかったようやが、あいつ博物館なんかは好きやからあちこちの水族館には行っとったようや。それにあいつ最近、ヴェルヌの『海底2万里』を読んだり、『海底2万マイル』ちゅーディズニー映画を見て喜んどったみたいやから、海に対しての考えが変わったかもしらん。ちょっと訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、わたしも最近やっと海に対して苦手意識がなくなりましたんで、須磨海岸や白浜に行ってみたい気もしますが、ソフトクリームを食べたり、イカ焼きを食べるんやったら、甲子園球場や梅田の食堂街でもできるような気がします。そういうことですから、もっぱら水族館巡りというのだけが楽しみということになります。ヴェルヌの『海底2万里』にはいろんな海の生き物のことが書かれていて楽しく読んだのでしたが、ディズニー映画「海底2万マイル」はカーク・ダグラスが張り切っていて活躍しますが、海の生き物はサメくらいなのでがっかりしました。でもノーチラス号がかっこいいので許します。そやけどお前、泳ぐんや食べるんを目的にせんと、風景写真を撮るために出掛けるちゅーのもええんとちゃう。例えば、どこがよろしいですか。そら、東尋坊とか高いところから海面を見下ろすというのがスリリングでええかもしらん。にいさんが今言われたように海の景色を撮ろうとするとレンズを高いところから下に向けるか、眼前に展開する海の様子を移すということになります。それはお寺や山と対峙してその対象を撮影するというのではなくて、海が主役でその周辺にある対象とするものの一部を写すことになる気がします。対象物を写すのではなく海が主役という気がします。山には他に高山植物、紅葉など季節ごとの変化がありますが、海にはそれがありません。海にいる動植物の写真を撮るためには、潜水のための装備や水中撮影のための器具が必要です。レンジファインダーのカメラに35ミリのレンズを付けて気軽に撮影するというわけには行かないのです。写真が撮れへんでも楽しみはいくらでもあるやろ。気軽にと言ったのは、費用を掛けないでというのもあります。沖縄の宮古島に行って潜水服を装着してインストラクターの講習を受ければ海に潜ることはできますが、写真を撮るとなるとどんなカメラがあるのかないのか分かりません。ニコノスというカメラがありますが普通に移す時と同じように写せるようになるまでは時間がかかりますし、レンズのヴァリエーションはなさそうです。これからもぼくは海と少し離れたところで撮影を続けようと思います。そうか、それもええやろけど、根室の日の出、九十九里浜の日の出、佐渡島の夕日、能登の夕日なんかもええと思うんやけどな。